教育CSRとは
杉並区立和田中学校の前校長、現在は大阪府政策アドバイザー(特別顧問)の藤原和博氏と、本コンソーシアム代表・若江が「未来を作る教育」について対談をしました。

若江:教育貢献を行う企業が増えてきましたね。ガスや電力会社の方ともお話する機会がありますが、環境教育や食育をはじめ、皆さん積極的に取り組まれているなと感じます。
藤原:例えば私が以前校長をしていた和田中では、積極的に外部の組織と連携した授業をしている先生がいます。例えば「エネルギーや環境で、こんな授業を実現したい」と思ったら、その実現に協力してもらえそうな会社を探して一緒に授業をつくっているんですよ。特に理科や社会科で多いですね。
若江:企業のノウハウを使った授業をどう実現するか、先生方にとってもそのための情報やスキルがますます必要になってくる時代なので、このコンソーシアムでも、先生方へもそういったサポートも積極的に行っていきたいですね。
藤原:そうですね。学校としては、恵まれていないから何でもいいからほしい、という段階はもう終わっている。授業できちんと使える素材と人的資源が必要ですね。形だけの教育貢献になっては意味がありませんので、そういう企業の方にはもっと学校のことを知ってほしいなと思います。
若江:先生方も、いままで企業の方が授業に来られても全てお任せだったわけですけれども、今後は「よのなか科」みたいに授業の一連の流れで、肝心なところで紐解きをする役目として企業の方に登場してもらったり、問題提起のために登場してもらったり。

藤原:支援体制が浸透するように、習慣化することが大切だと思います。教育とは、いい習慣を作ること。そのためには、スポットで年1回、ある授業に教材キットを抱えて学校に来て、授業をするだけでは、子どもたちからは忘れられてしまう。
若江:まさにそうですね。一方で、企業の中では学校支援活動を自社の「社員教育の一環」として考える動きも出てきています。なぜかというと、企業が持っている技術やノウハウを私たちは価値ある教育的資源とみています。その価値を子どもたちにうまく伝えられないということは、もしかしたらお客様にも企業の価値を伝えられていないのかもれません。学校支援活動に携わることで、自分の会社のことをきちんと知る良い機会になったという声もよくお聞きします
藤原:有給で、地元の学校に支援に行けたりする、そういうことがもっと進むといいな、と思います。
若江:ボランティア休暇などがそうですね。いままでは、どちらかというと環境整備や福祉分野での取り組み主流だったようですが、それをもう一歩広げて、教育現場に日常的にサポーターとして関わるといった、機運が高まればいいですよね。
藤原:会社として、社員の子どもの通う公立の学校に、例えば月1回有給で必ずボランティアに行かせる。これをやったら企業はすごく尊敬されるのではないかと思うし、そういう会社で働きたいという人も増えるんじゃないかな。お母さんが働く場合でも、自分の子だけを見に行くわけじゃないから、もっと広い視点で学校教育に関われると思う。
若江:社員が親として地域住民として地域の学校を支援することで、子どもとの関係も良くなるし、家庭教育の改善にもつながっていく・・・これは藤原さんが、よくおっしゃっていることですよね。
藤原:ええ、そうです。お父さんに保護者参観や運動会に行けといっても、お母さんが圧倒的に多いから照れちゃいます。そうではなくて、和田中であればドテラ(※土曜寺子屋)のような場に、教員免許はいらないので算数を教えに来てもらうとか、そういったことが浸透していくほうが、企業にとっては本当の意味でのCSRになる、根っこを押さえることになると私は思いますね。
若江:同感です。親として地域住民として教育に関与することで、学校現場で何が求められているかを理解したうえで、自社の教育CSRのプログラムの開発や提供に取り組んでほしいですね。
藤原:そうだと思います。例えば、新しいビールのジョッキを開発しようとしたとき、ちょっと飲み屋に行って思いついたように新しい製品を開発しても売れるわけがない。一夏、毎日のように飲みに行った担当者が強いんだと思うんですよ。人間は習慣になっていることから、改善点をさがすことができる。学校でも思いつきで提案されても先生たちが困るけれども、毎月来ている人が授業を見てこうでした、土曜日に子どもたちがこんなことを言ってました、というと先生たちは聞く耳を持つんです。
若江:企業は教材提供だけではなく、もっと多くの人材が学校現場に触れる機会提供をしてほしいですね。親として、退職者が地域人として、また若手社員が人生の先輩としてなど・・・。そしてその経験やノウハウを企業活動や社会に活かしてもらう、そんなことが実現していけば素晴らしいですね。
藤原:子どもは身近な人からしか学ばない、という大原則があります。だからお母さんから一番強い。次にお父さんが来るはずだけれども、いまはリビングに鎮座しているテレビのほうが習慣化されて、お父さん以上に人気タレントが影響力を持っている。先ほども言いましたが、教育ということは習慣化するということ。はびこる、つまり浸透させるというのが大事なんです。
若江:企業には、自社の思いを中心にスタイルで教育CSRではなく、現場に受け入れられる教育支援を、とお願いしているのですが、子どもたちの興味関心を引き出し、学習を成立させるのは容易なことではありません。そのためには社員や教員が実施しやすいプログラムや教材開発がポイントになりますね。
藤原:そこで大事なのが教材のクオリティです。企業CSRやボランティアだからといってつまらないもの、ダサいものを提供されても誰も使わないし、逆に猛烈に企業の印象が悪くなる。やっぱりかっこいい、クールさが必要ですよ。小中学校では絶対におもしろいか、かっこよくないと、子どもには支持されませんから。でも、いくらかっこよくてもそれが学習につながっていければ全く意味はありませんからね。
若江:一方で、学校の先生は、企業の人たちとどう連携していけばいいのでしょうか?
藤原:企業で働いている人にとって、学校は非常に特殊な世界に見えると思うんですよ。先生たちが職員室でやっている仕事を知っている人は少ない。子どもたちをめぐる課題が膨大ですし、多様化し複雑化するなか、先生たちには十分な余裕がない。いろんな商品が多様化しているなかで、子どもだけはなぜか均一だと思われている。まず、それが教育界の受けている誤解の根っこだと私は思っています。
若江:そういった意味で、企業と学校現場の橋渡し役をする、教育コーディネーターの必要性が高まっていますね。
藤原:時代状況の変化もあり、IT、福祉、国際化、心の教育、キャリア教育など教える課題がどんどん出てきていています。先生には何かを任せるという発想がなく、自分でやることが美徳、という人も多い。そういったことを全て理解したうえで、先生を躍らせてくれる演出家が必要です。脚本と主役を先生に任せつつ、それ以外の脇役部分を企業に任せていくようなコーディネーターというかファシリテーター。すべての場面で「つなぐ」役割の人が不足しています。
若江:コーディネーターにとっては、できるだけ教科の目的・テーマに合った企業プログラムの一元化された情報が必要だと感じています。今は様々な企業のプログラム情報が散在しているので、先生方も必要な情報を探しにくい。まさに「つなぐ」ことがますます必要とされていると感じます。
――ありがとうございました。
●藤原和博氏
杉並区立和田中学校 前校長
大阪府政策アドバイザー(特別顧問)