インタビュー

上智大学総合人間科学部教育学科教授 奈須 正裕 氏インタビュー

インタビュー人物

“カリキュラム・マネジメント”はすでに現場で実践されている

上智大学総合人間科学部教育学科教授
奈須 正裕 氏

<プロフィール>
東京大学大学院教育学研究科博士課程教育心理学専攻を単位取得退学、博士(教育学)。神奈川大学助教授、国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て平成17年より現職。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会など、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議等の委員として新学習指導要領の内容検討に関わる。
近著に「資質・能力と学びのメカニズム」(2017年、東洋館出版社)。

“カリキュラム・マネジメント”はすでに現場で実践されている

学習指導要領改訂のキーマンに聞く、“カリキュラム・マネジメント”の本質とは
「“カリキュラム・マネジメント”はすでに現場で実践されている」
長年にわたり、生活科・総合的な学習の時間のカリキュラム編成や、教科横断型の学びについて研究され、文部科学省中央教育審議会教育課程部会で学習指導要領改訂に携わられた、上智大学総合人間科学部教育学科教授 奈須正裕氏に、新学習指導要領のコンセプトとカリキュラム・マネジメントの本質、その実践のためのヒントを伺いました。

改めて、新学習指導要領は何を目指しているのか、教えてください。
今回の改訂はメディアの注目を集めていますが、実は戦後の指導要領改訂の歴史の中で初めて、既存教科の内容や時数が大きく変わらないのが特徴です。 特に、幼・小・中については変化が極めて小さい改訂です。 新しく追加になる科目としては、外国語教育の強化を目的とする小学校での英語の教科化があり、そのほか道徳の教科化、小学校からのプログラミング教育の必修化というポイントがあります。 高等学校については、科目を全面再編成します。 前回内容の改訂まで至らなかった分、今回のタイミングで、ある意味20年分の改訂を実現することになります。
幼・小・中の既存教科や領域について内容や時数にほとんど変更がない理由は、言い換えれば現行の内容がうまくいっている、ということでもあります。国際的な学力テストの結果もよく、海外でも評価され、国内でも都道府県の学力差が縮まっているという成果が見られます。特に、総合的な学習の時間に代表される、探究的な学習への取り組みは、日本のみならずアジアやヨーロッパの各国でも実践が進み、一定の評価を得ています。英語や道徳の教科化については以前から議論がなされてきましたし、プログラミング教育についてはAI化が進む中で経済界からの要請が強まった結果であり、教育論とはやや別のながれのものです。
つまり、教える内容は変えなくていいのです。ただ、大きな変化は“どんな力がつくか(資質・能力)”という視点から、学力の質を見ていくという点です。
これからの世界では、知識だけでは生きていけません。思考力・判断力を駆使して、問題をどう解決するかであり、そこではさらに意欲、感情コントロール、粘り強さ、ストレス耐性といった、“非認知的スキル”が重要視されます。国際化した社会で、文化的背景の異なる人とコラボレーションする機会も増える中で、ソーシャルスキルは現実の問題解決に必須です。それらすべてを総合し“学力”と位置づけ、育成していこうとするのが今回の改訂の主旨です。

非認知的スキルは、まさに今、社会が求めている力ということですね。
“コンピテンシー”という言葉は、そもそも1970年代のアメリカで人材開発の領域で使われだしました。企業でよい業績を上げたり、周囲と円満な関係を築けている人を調べると、知識はもちろんのこと、それ以上に思考力などの汎用的な能力が他者より高かったのです。一番は、情意と対人関係能力です。そのような研究から、世界的に汎用的な能力を学力の中に入れ込んでいこうという動きが広まっていきました。
こういった話を現場の先生にすると、「それは学力ではなく実力だろう」とおっしゃる方もいます。学校で培う学力と人生を切り開く実力は別物と捉えられていたのです。新学習指導要領で強調される“資質・能力”は、学ぶことを含め、実際に人生を生き抜いていく力、市民生活を営む力、つまり“実力”そのもので、そこには非認知的スキルも含まれます。子どもの発達を考えてみてください。幼児教育の中心は非認知的スキルの育成です。それが小学校から大学までの間、ちょっと変わってしまっていた、それを正常化しようというだけの話です。

現場の先生方にとっては、教える内容は変わらない。また日本の先生方の指導も、高く評価されている。あとは、“実力”の育成につながるよう、学びを社会に開くことに意識を向ければ、大きな変化が起きそうですね。
変化をもたらすのは“評価”です。これまでは、学校や社会が何を評価するかが違っていたのです。例えば、会社の入社試験でも暗記的な知識をどれだけ所有しているか、あるいは短時間でどれだけ問題が解けるかということを大切にしてきたので、教育現場も合わせざるを得なかったのが現実です。
“生きる力”という考え方は、世界に先駆け日本に早くからあったはずが、世の中の学力低下への社会的な批判が、その後の日本の教育を10~20年遅らせたということも言えるかもしれません。しかしその時点では資質・能力の育成のための具体的な方策も確立していませんでしたから、今、知識や技能が備わっている状態で、新しい“学力”に向かっていけるのはよいことでしょう。しかも、今回の改訂においては、従来教育界が育てたいと願ってきた人間観と、産業界が求めている人材像が一致しています。

“実力”を育てるために必要なのが効果的な“カリキュラム・マネジメント”ですが、現場の先生方は“カリキュラム・マネジメント”をどう理解すればよいのでしょうか。
多くの先進国では、国がカリキュラムを管理することはありません。枠組みや、スタンダードはあれど、子どもに何をどう教えるかは、教員が考えるものというのが一般的です。一方日本では、教科書がしっかりと国によって検定され、質・量ともに高い水準が維持されてきました。ある意味で、これまで教科書がカリキュラムをマネジメントしてきてくれた、とも言えます。
では教科書のない総合的な学習の時間や、そのほかの学級活動、学校行事などはどうでしょう。
先生方が各学校・各地域の実態に合ったカリキュラムを実際につくってきていらっしゃいますね。
小学校では、学級活動の35時間を1年間でどう使うか、計画性・深い見識をお持ちの先生はとても多いです。4月なら子どもたち同士の関係づくり、学級づくりに存分に使う。必要に応じて、時間割を入れ替えたりしながら、学級づくり、対人関係づくりをするノウハウを先生方は持っています。6年生なら、最高学年として小学校の学びをどう集大成させ、卒業生として送り出すか、独自の技法をお持ちです。最後の文集づくりは、経験を自覚化して表現するという学びの履歴を、ポートフォリオ化するものです。
つまり、先生方は、子どもの実態・学年に配慮したカリキュラム・マネジメントを特別活動や学級経営を通し、すでに実践されているということです。
普段どんな工夫をして、どんな失敗に学んで、どう改善してきたか、そのときの子どもの様子をどうつかんでどのように生かしているか、それらはすべて素晴らしいノウハウです。それを自覚していただき、積極的に学年や学校で議論するということをなさればより良いと思います。
総合的な学習の時間のカリキュラムの見直しなども、特別活動や学級経営の発想をそのまま生かし、生活を基盤とした学習と捉えれば難しいこと、新しいことではありません。子どもの実態に合わせ、子どもの“実力”を育てるような時間や資源の活用方法を考えていただきたいです。

特別活動や学級づくりの手法や考え方をそのまま応用すればよいのですね。学校全体のカリキュラム・マネジメントについては、どうあるべきでしょうか。
「何に向けて何を拠り所にマネジメントするか」が重要です。学級活動、学級経営のマネジメントでは、先生方の中にこんな学級にしたいという具体的なイメージがある。自分が以前持ったクラス、若い頃に見た隣のクラスなど、思い浮かべられると思います。
学校レベルでも同じようなイメージを持てているでしょうか。学級と比較すると、学校教育目標は具体性に欠けるところがあると思います。学校全体のカリキュラム・マネジメントも、同じように具体的な目標やイメージが持てれば実効性が高まります。学校教育目標について、校長先生を中心に議論を重ね、授業の指針となるくらい具体的に設定するところから始めるのもよいでしょう。

“実力”を育てるカリキュラム・マネジメントの実践において、地域やキャリアとの関連性も高い総合的な学習の時間は鍵になると思いますが、いかがでしょうか。
学校教育目標を具体的に設定できたら、そのまま総合的な学習の時間の目標にすればよいのです。(新学習指導要領【第4章:総合的な学習の時間】には「(総則)第2の1に基づき定められる目標との関連を図る」とある(※1)。総合的な学習の時間で育てたい子ども像を、創意工夫、地域の実情に合わせて自在に描くことができます。特別活動の考え方を広げ、学校教育目標とつなげ、カリキュラム・マネジメントのトレーニングができます。「社会に開かれた教育課程」という視点で、学校を地域に開き、子どもの力を育てるときにも、その目標を地域にも明確に提示し、共有することが重要です。そうすることで、地域社会や保護者が資質・能力の育成に関わり支えてくれるようになり、地域の方々の子どもの見方も確実に変わります。

一つの教科におけるカリキュラム・マネジメントについてはどうあるべきでしょうか。
算数で考えてみると、教科書では、まず足し算をやって、そのあと別で引き算を教えて、そのあと掛け算を・・・という順序で登場し、そのように教えられていますが、子どもたちの中でそれらが統合されていません。教科にはそれぞれに独自な系統や体系があって、それらに向かって知識が整理されていくことをめざすべきですが、現状はそのように教えられていません。算数はできたのに、中学校に入って数学ができなくなってしまう原因は、算数の知識を体系的に整理できていないことが原因です。
1年生で計算ができて問題が解ける、それが算数の学力と思われがちですが、そうではなく、「数量関係」を把握することが足し算引き算を通して身に付ける重要な資質・能力だと考えると、授業の創り方、カリキュラムの組み方は変わってきます。新学習指導要領で整理された「教科の見方・考え方」とはそういうことを示しています。


各教科、学級レベルでの実践への期待も含め、先生方へのメッセージをお願いします。
小学校の場合、担任の先生が全教科を教えているため、学習内容はつなぎやすいですが、各教科の「見方・考え方」など教科内容に関わる専門性では、中学校の先生にはかないません。
小学校の先生には、ぜひ、自分の研究教科や専門教科を一つ決め、その教科の「見方・考え方」を実現するような授業づくりに取り組むことをお勧めします。それができれば、他の教科にもイマジネーションが広がりますし、他の先生方との連携も進みます。
中学校・高等学校の先生方には、すでに教科の専門性があるので、その中の「見方・考え方」「体系性」に授業の照準を絞ってほしいですね。つまり、教科そのものの本質を生徒が主体的に探究するような授業づくりです。その先には、教科を超えた校内のチーム作りによるスキルアップの方法もあります。
実は、カリキュラム・マネジメントに関する【総則第2-1:教育課程の編成 (※2)】は、今までの学習指導要領では明示されていなかった内容です。実質的にそれぞれの教科の課程があり、それをまとめたものが教育課程になっていたのかもしれません。今回新しいのは、学校教育目標の明確化と、それを家庭や地域と共有されるよう努めるもの、と打ち出されたことです。どんな子どもを育てるのか、学校全体で議論し、校内、保護者、地域と共有することこそが、カリキュラム・マネジメントの基礎と考え、実践していただきたいです。
 




<インタビュアー> 
キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム 
事務局長 若江 眞紀 
 
(2017年9月3日時点での内容です)


1  新学習指導要領(平成29年3月公示) 第5章:第3 各学校において定める目標及び内容
  (1) 各学校において定める目標については,各学校における教育目標を踏まえ,総合的な学習の時間を通して育成を目指す資質・能力を示すこと。

2  新学習指導要領(平成29年3月公示) 総則:第2 教育課程の編成:1 各学校の教育目標と教育課程の編成
教育課程の編成に当たっては,学校教育全体や各教科等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,各学校の教育目標を明確にするとともに,教育課程の編成についての基本的な方針が家庭や地域とも共有されるよう努めるものとする。その際,第5章総合的な学習の時間の第2の1に基づき定められる目標との関連を図るものとする。

 

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