インタビュー

國學院大學人間開発学部初等教育学科教授(文部科学省視学委員)田村 学氏インタビュー

インタビュー人物

カリキュラムを“探究モード”へ切り替えて、知識・技能が駆動する授業による資質・能力の育成を

<プロフィール>
新潟大学教育学部卒業後、昭和61年4月より新潟県公立小学校教諭、上越教育大学附属小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事を経て、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官。文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わる。平成29年4月より現職。『「探究」を探究する』(学事出版)、『授業を磨く』『カリキュラム・マネジメント入門』(いずれも東洋館出版社)など。最新著書は『深い学び』(東洋館出版社)。

カリキュラムを“探究モード”へ切り替えて、知識・技能が駆動する授業による資質・能力の育成を

~「学習者主体」「つながりの意識」そして「プロセスの充実」~

子どもたちが社会・世界と関わり、自らの人生を切り拓くための力を育成することが教育の目標であると新学習指導要領において改めて示されました。その目標をめざすにあたり、最も重要な学びのコンセプトとなるのが“探究”です。教科を超え、学校を超え、子どもたちが主体となり学び続けるために、学校現場は“探究”をどう捉えるべきか―
長年にわたり「学習者主体」の授業づくりや現場における深い学びの実践と研究に携わる、國學院大學人間開発学部教授田村学氏にうかがいました。


“探究”とは、どのような学びをいうのでしょうか。

シンプルに言えば、「自ら設定した課題を、自ら解決し、その成果を自ら評価する」ということです。これまでは、教師がお膳立てをし、子どもたちは与えられた課題をこなしてくるスタイルがほとんどでした。しかし、今の子どもたちはこれまで以上に変化の激しい、予測不可能な未来を生きていきます。一方的に知識を教える教育を行っても、これからの社会に期待される人材を育成することができません。それ以上に、子どもたちの将来の幸せや自立を考えれば、自ら問題に立ち向かい、他者と協働しながら最適な課題解決方法を探り出していく力を身につけさせることは必須です。学校現場も、そのために何をすべきか考え、変化しなければなりません。そのための手段として“探究”があり、そこには文部科学省の掲げる「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」が含まれると考えてよいでしょう。“探究”を通じ、社会で必要となる力を育てていくことがめざされています。

田村先生の近著に「学びを探究モードに切り替える」という表現がありますが、
学びが“探究型”=“探究モード”になると、具体的にどんな変化が現れるのでしょうか。


“探究”における学びには、どこをとっても「自分」が入っています。つまり、「教師主導」から「学習者主体」の学びに転換するということです。学びの姿は「パッシブ(受動)」から「アクティブ(能動)」へ変化し、個々の子どもたちが本来持っている良さ、個性、学びへの欲求が、よりはっきりと見えるようになるでしょう。「主体的な学び」においては、子ども自身が自らの学びをコントロールします。どのような課題を設定するのか、そこには、子ども一人一人のリアリティーがなくてはなりません。
これまでの日本の学校教育においては、子どもたち自身が「自分」を主語として語って良い、学習の中に「自分」が入りこんでいて良い、ということを意識づける機会が少なく、自分たちで物事を考え、判断し、進めていく、そんな場面も限られていました。それが、日本の子どもの学びへの意欲の低さや、自己肯定感の低さに反映していると言えるでしょう。 “探究”では、学びのプロセスに「自分」がもっと入ることで、より主体的になっていきます。そのためには教科で学ぶ知識や獲得する技能などを発揮する場面をより多くつくっていく必要があります。その結果、本当に育成したい社会で求められる資質・能力が育成されていきます。環境さえ整えば、発達年齢が低い子どもであってもそれぞれのペースで自ら学ぶようになります。


「自分中心」の学びの在り方は、幼児教育においてはスタンダードであるにもかかわらず、
小学校段階に入るとそのモードが変わってしまうのはなぜなのでしょうか。


その通りですね。まさに、幼児期は日々の遊びすべてが探究型と言えます。“探究”=ハイレベルな学習、ではありません。やりたいことだけをとことんやる」、それが幼児期の学びの姿ですね。それが学校というしくみの中で、学年が上がれば上がるほど、教科で学ぶ知識量が増え、あまりに他者を意識し過ぎるようになり、本質的な学びへの欲求を発する場面がどんどん減っていきます。幼児教育における探究を小学校につなぐために「生活科」が設けられ、それを質的に向上させたものが「総合的な学習の時間」です。例えば、生活科における学習過程として「やってみたい」「もっとできるようになりたい」という願いをもつことがあります。これは幼児教育からの延長であり、その思いを実現するための活動や体験を行う、体験から何かを感じる、表現する過程そのものが、カリキュラムの骨子です。総合的な学習の時間も、生活科から発展した一連の探究過程を重視します。このように本来、探究のカリキュラムは教育現場においてタテにつながっているはずなのですが、学校や地域により差があるのが実態です。
「学習者主体」という意味で、幼児教育に倣うべきことはたくさんあります。新学習指導要領においては、保幼小連携による児童の力の育成をめざし「スタートカリキュラム」の実施が明確に位置づけられ、「幼児期の終わりにまで育ってほしい10の姿」※ が設定されました。


※参照:文部科学省、新学習指導要領 小学校学習指導要領(平成29年3月公示)

これらはもちろん幼児教育の現場における目標の明確化でもありますが、それ以上に「小学校との接続」を意図して示されています。しかし、意外と内容をご存知ではない小学校の先生方も多いのが現状です。なぜかといえば学校現場は習慣として、小学校の先生は中学を、中学校の先生は高校を、高校の先生は大学を…と皆「出口=先」に意識が向きがちで、「これまでを見る」習慣がほとんどありません。小学校に入学したばかりの1年生を、まっさらな白いキャンバスのようにとらえている方もいらっしゃるでしょう。しかし、それは大きな誤解です。子どもたちは皆、それまでに個性あふれる学び、しかも探究型の学びを積み重ねています。それが、生活科、総合的な学習、総合的な探究に段階的につながっていくことで初めて資質・能力が育成されます。“探究モード”への切り替えには、この「先を見る」から「これまでを見る」へ、「つながり」をより意識する、教師の発想の転換が重要であると言えます。

発想の転換は重要だと理解しつつも、ご自身の「慣れ」や「経験」から脱却することは
なかなか難しいことではないでしょうか。


チョークアンドトークから子どもたち中心への学びへの転換は、もちろん容易ではありません。私たち含め、現場にいる先生方の多くが「学習者主体」で育ってきていないわけですから、教壇に立ったときの授業イメージがもてないということは仕方のないことです。しかし、今、多くの先生方の実践により、新しいモデルケースが増え、徐々に“探究”をするための学びの環境づくりの事例が増えてきていることも事実です。このような事例を参考に、少しずつ授業デザインを変えていくことはできるでしょう。
例えば、授業の導入を例に考えてみましょう。多くの場合、教師は子どもに「めあて」を示します。その多くは1時間の授業の目標を示すものであり、教師が一方的に定めたものであることが多いように思います。「めあて」はもちろん重要ですが、それをどのように子ども自身のものにしていくかが大切です。そのためにも、子どもに問いかけてみてはどうでしょうか。「どうしてそう考えたの?」「どう思う?」「あなたならどうする?」と。「なぜ」「どうして」と投げかけるうちに、子ども自身が自ら問い続けるようになります。と同時に、子どもの理解度や心境を把握し、実態に応じて授業を進めていくことができます。それはすでに「学習者主体」の授業に近づいています。

“探究”の実践の場として「総合的な学習の時間」はますます重要ですが、
そのことは現場に理解されているのでしょうか。


タテのつながりをマネジメントするとともに、各教科の学びについても、知識が“探究”において機能するようヨコでつなげていくことが必須です。つまり、「総合的な学習の時間」において教科で培った知識や技能を「駆動させる」機会を多く設けていく必要があります。そのためには、閉じた学校というフィールドだけでは不十分で、地域や外部人材との連携により、「学びを社会に開く」ことは必要不可欠になりますし、社会教育施設や夏休みという特別な時間も生かしながら、最終的に「駆動させた知識・技能」を通じて得た資質・能力をどう生活に戻していくか、実社会に還元するか、そこまでをデザインすることが重要です。総合的な学習の時間では、教科等の「見方・考え方」を活用し、自ら設定した課題に向き合い、問い続ける場面をつくることを意識します。
また、地域協働や小中連携の観点からも、総合的な学習の時間というのは、教科の枠を超えて教員同士はもちろんのこと、地域人材との連携など最適な協働の機会です。そのためにも小中学校の教員が合同でカリキュラムや指導法の一貫性を見直し、その精度を評価するための合同研修など、“探究”が毎年同じことの繰り返しや継続性のないイベント的な学習に終始しないよう、子どもが主体になれる学習環境整備への取組が大切です。


高等学校の新学習指導要領では、“探究”がキーワードになっています。
高等学校ではどのような実践をめざすべきでしょうか。


教科における専門性が高まる高等学校においては、教科間の連携も容易ではありません。しかし、一方で個々の先生方の専門家としての知識やご経験は、小中と比較してもかなり多様かつ高度であり、人財の宝庫と言えるでしょう。ある意味“探究”の場としてはうってつけです。
“探究型の学び”の実現にはテクニックよりも、先生方のマインド・セットを変えることが求められます。先述の通り、小中学校でどんな学びを積み上げているのか「これまでを見る」意識とともに、高校生にもなれば、一人一人の探究テーマが異なっても、学び方や学ぶペースが異なってもかまわない、くらいの気持ちで臨んでいただきたいです。
高等学校の探究の実践イメージには、2つの型があると思います


1.アカデミック型:研究やロジカルな論文作成を中心とするも
2.プロジェクト型:社会参画・社会還元をめざしたアクションを中心とするもの

小中学校ですと、2つの型が混在しているのが普通ですが、高等学校ではより個性や個人の興味関心、それぞれの学校や生徒の実態に合わせて選択できるようなデザインが適しているでしょう。多様性を重視しそれぞれが好きなやり方で学んでいけるようにする、これは小中学校で分化されていた“探究”のカリキュラムが一巡して幼児教育に戻るようなイメージですが、しかしその内容は全く異なり、高度かつリアリティーのある実社会につながっている。小中で“探究”のやり方を獲得してきた生徒たちは、その探究のやり方=「型」を応用しながら、どこまでもエネルギッシュに学んでいくことでしょう。それは、大学における学び、そして生涯学習へとつながります。
“探究”をする上で、教科の基礎的な知識は重要です。日本の先生方が、知識獲得において世界トップの指導力をもっていることは明らかであり、そのストロングポイントについてはこれまで通り発揮されるべきです。一方で、これまでに実践が足りていなかった柔軟性のあるカリキュラムのデザインスキルやファシリテーションスキルといった点を意識的に補完していけば、トータルの指導力が向上します。そのためには、すべてを教師が担うのではなく、外部人材・民間の力の活用が必要です。先生ご自身が、新しいテーマや新しい人とのつながりを楽しみながら、“探究”をデザインしていただきたいです。それが、AI時代に教員に求められる資質であると言えるかもしれません。


最後に、“探究”を成功させるための、小中高共通のカリキュラム・マネジメントの
ポイントについて、お聞かせください。


「プロセスを充実させること」が、“探究”の最大のキーワードです。つまり、学びの結果ではなく、学びのプロセスに、いかにたくさんの資質・能力を発揮する場面をつくれるか、それがカリキュラム・マネジメントの軸になります。「総合的な学習の時間」、「総合的な探究の時間」を中核にしながら、育てたい子どもの姿、身につけてほしい資質・能力をイメージし、その発揮場面を拡張していけば、他の教科や全教育活動が徐々につながっていくでしょう。つまり、授業改善、指導力向上という、一つの機会について「資質・能力活用発揮場面」を設けることを考えることが、そのまま全体のカリキュラム・マネジメントを考えることと連動し、両輪で変化がもたらされていくイメージをもっていただき、実践を積み重ねていただければと思います。
 




<インタビュアー> 
キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム 
事務局長 若江 眞紀 

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