2024年6月14日

PISA2022 
結果から何を見るか ~順位に現れるもの、現れないもの

  • #個別最適な学び
  • #PISA2022
  • #CBT
  • #ICT
  • #探究
  • #自律的な学習者
  • #教育データ
  • #アセスメント
「PISA2022 結果から何を見るか」の画像です。

前回から4年ぶりに実施された2022年の学習到達度調査「PISA(Programme for International Student Assessment) 」。日本は科学的リテラシーが2位(前回2018年は5位)、読解力が3位(同15位)、数学的リテラシーが5位(同6位)と、依然として3分野とも世界トップレベルをキープしている、という結果となりました。

前回の調査からの推移としてOECDの全体での平均得点は低下しましたが、日本は3分野全てで平均得点が上昇しました。OECDは、その要因の一つに、新型コロナウイルス感染症のために休校した期間が他国に比べて短かったことが影響した可能性があるとみています。非常時においても「学びを止めない」安定かつ公平な教育を実現し、好成績を維持した日本は「レジリエントな」国の一つだと、OECDの調査結果のなかでも評価されています。

今回の結果には、日本の教育環境の変化も反映されています。
前々回(2015年)から、コンピュータで出題・解答する方式に変更されました。前回、前々回の調査において、日本の生徒の読解力の順位が落ちた要因として、端末操作の不慣れが指摘されていましたが、今回は、GIGAスクール構想の実現とコロナ禍に加速されたICT活用により、生徒が端末の使用に慣れてきたことが改善につながったと考えられています。

ICTの活用状況について、日本の生徒は「授業中にICT機器の利用により注意散漫になることが少ない」「情報モラルが高い」ことがわかった一方で、各教科でのICTの利用頻度はOECDの平均より低いことが明らかになりました。ICT環境の整備が着々と進んでいるなか、多くの学校現場では従来の授業手法にとどまっているという現状から、生徒自身が主体的にデジタル・リソースを用いて、自ら情報を集め、分析し、まとめ・表現するといった探究的な学びへ、各教科でのさらなる授業改善が求められています。

新しい取組としては、2018年度に導入された“多段階適応型テスト(Multi Stage Adaptive Testing : MSAT)”が、今回より数学的リテラシーの調査に適用されました。生徒の解答結果に応じて、その次のステージで出題内容を自動的に変える方式であるため、より高精度な能力測定が可能になります。これにより能力の特に高い/特に低い生徒についての実態が把握しやすくなりました。
これらの調査の結果、日本は、社会経済文化的背景(ESCS)水準別に見た数学的リテラシーの得点差(高い層と低い層の格差)が少ないことが明らかになり、子どもたちがどのような環境であっても一定水準の教育が担保されていることは、日本の教育制度の良さととらえることができるでしょう。

一方で、今後取り組むべき施策の一つとして挙げられるのは、“自律した学習者の育成”です。「今後、再び学校が休校になった場合に自律学習を行う自信があるか」という問いに対し、「自信がない」と回答した生徒が日本は非常に多く、「自律学習と自己効力感」の指標は、OECD加盟国37か国中34位ととても低いことがわかりました。
国立教育政策研究所は、普段の授業から、自ら思考し、判断・表現する機会を充実させ、これからの未来社会を生きる子どもたちが自律的に学んでいくことができるような経験を重ねることが重要だとまとめています。

国家レベルではレジリエントな教育が実現しており、生徒の平均的な能力も高い。その一方で、低い自己効力感を抱える生徒たち。VUCAの時代を生き抜くために、もっとも重要な力は、自分に必要な情報を自ら選び学び続ける“戦略的学習力“と言われています。PISAの順位が上がったことに、単純に喜べない現実があります。
今回の結果を踏まえて、マクロとミクロの両面を見つめながら、学校教育で、またその外側(社会・家庭)で、「協育」を通じてどのように子どもたちひとりひとりの「レジリエンス」を育てられるか、共に考えましょう。

※ 参考:

※ 出典
https://futureskills.pearson.com/research/assets/pdfs/technical-report.pdf/