インタビュー

南あわじ市長 守本 憲弘 氏インタビュー

インタビュー人物

地方創生、地方再生の鍵は『人づくり』、まさに『教育』にある。

兵庫県南あわじ市

守本 憲弘 市長

<プロフィール>
  • 昭和59年
    東京大学法学部卒業後、通商産業省(現 経済産業省)入省
  • 平成3年
    米国ノースウエスタン大学 経営大学院卒業
  • 平成18年
    経済産業省産業人材政策室長
  • 平成23年
    資源エネルギー庁参事官(原子力損害対応室長)
  • 平成24年
    中小企業庁経営支援部長
  • 平成25年
    経済産業省東北経済産業局長
  • 平成28年
    経済産業省退職
  • 平成29年
    南あわじ市長就任(任期:平成29年2月13日~令和3年2月12日)

地方創生、地方再生の鍵は『人づくり』、まさに『教育』にある。

兵庫県南あわじ市 インフォメーション

南あわじ市内各地区には、古くから伝わる伝統芸能が数多く見られます。そのなかでもとりわけ有名なのが、約500年の歴史を誇る『淡路人形浄瑠璃』です。大阪の文楽や徳島の阿波人形浄瑠璃なども、『淡路人形浄瑠璃』から伝わったといわれています。国の重要無形民俗文化財に指定され、近年では国内外での公演や、市内の高校や中学校のクラブ活動など、幅広い活動を通して保存・継承に努めています。 また、浄瑠璃の語りの重要部分を発展させた「だんじり唄」は各地域でのイベントなどで唄われています。

『教育』を重要施策にしている自治体は数多くありますが、縦割りの行政システムのなかで、規模が大きくなればなるほど部局・部署間の連携はもちろん、教育委員会内各課における協働も難しく、地方創生、地方再生へとつながるインパクトある教育改革の事例は極めて少ないのが実態です。

今回ご紹介するのは、地方創生のために『教育』のあり方を変える決断をした、兵庫県南あわじ市の事例です。行政のトップがどのようなステップで、何をどのように動かしたのか。『教育』を変える一つの手段として、地域に開かれた自治体オリジナルのカリキュラムの開発がなぜ必要だったのか。南あわじ市長 守本憲弘氏に、その背景と具体的なアクション、南あわじの未来を見据えた『教育』にかける思いをうかがいました。

若江

今日は、2018年度から動き出した南あわじの教育改革と『コアカリキュラム』について、ふりかえっていきたいと思います。まずは、本事業スタートのきっかけをお聞かせください。

守本市長

南あわじ市は、神戸と四国につながる淡路島の三つの市の最も南に位置します。淡路島は、食材や観光資源は豊かですし、橋が架かり、関西の大都市からも近くなりました。条件面はさておき、求人倍率は高率です。しかし、多くの地方都市同様に若者・子育て世代の流出に悩んでいます。その原因を端的に示す事例があります。隣の洲本市に県立病院があり、そこに100人余の常勤医師がいらっしゃるわけですが、その四割程度が、明石海峡大橋を渡った神戸、大阪方面から、わざわざ通ってきています。なぜだかわかりますか?理由は、『子どもの教育』です。淡路島の子どもたちは、高校生になると、神戸や大阪に進学のために出ていくことも多く、その大半はそのまま都市で就職します。淡路島にいる限り、教育の選択肢はどうしても限られます。私自身は、小中高校の友達がここにいるからこそ最終的に戻ってきましたが、高校で島外に出た子どもたちの何割がここに戻ってきてくれるでしょうか。この課題を実感として持っていましたので、南あわじの将来を良くするためには、まず『教育』をきちんとすること、ここで子どもを育てたいと思える環境にすることが、私のミッションだと考えました。よく言われる消滅可能性自治体になるのを待つのではなく、むしろ一歩進んで地方都市として発展するためには、『教育』を良くする必要があります。地方都市における『教育』は、今目の前にいる子どもたちをどう育てるのか、ということはもちろん大事ですが、それに留まらず、地域の魅力ひいては未来戦略を左右する非常に重要なキーワードでもあるということです。そういう想いから、市の教育の魅力アップのため、南あわじならではの地域リソースを活かし、人間力・表現力を高める教育をやろうと決めていました。

若江

2017年2月 に市長に着任された直後から、「教育を変えたい」とさまざまな外部との連携をスタートされていらっしゃいますが、そもそも今ご説明いただいたお考えが市長になられる前からおありで、そのために南あわじ市に戻っていらした、と言っても過言ではないですね。

守本市長

経済産業省にいたころにキャリア教育を担当していましたから、やはり教育が今のままではいけないという問題意識は持っていました。その南あわじ市での手始めが、『淡路人形浄瑠璃』だと思いました。世界に誇る地域の伝統芸能であり、そのプロが地元にいる。いかさない手はありません。一方で子どもたちの置かれている状況を見ると、AI、グローバル化という流れのなかで、ふるさと教育が大事だ、と改めて言われていました。そこで、「この淡路人形浄瑠璃を使って、子どもたちに表現力を高め、情操を豊かにする教育ができれば」と考えたのです。このAI時代に何が必要かと問われれば、人と人との繋がりとか、実際に本物を見て、触れて、使って、考えることだと思います。それに、地域特有の文化、日本の伝統文化を学ぶことは、将来海外の人と付き合う時にも、自分の中の文化的支柱になるものです。ふるさと教育とグローバル教育が重なるテーマ、これでやるしかない、と感じました。そして、キャリアリンクさんに相談したときにご提案いただいた手法が、『コアカリキュラム』でした。

若江

経産省時代にご一緒させていただきましたが、キャリア教育の本質を理解されている守本さんが市長になられたことにより、「教育のことはそちらでよろしく」と教育委員会に委ねてしまうのではなく、AI×伝統、そして思考力・判断力・表現力といったこれから必要な力の育成に、地元の伝統的な資源を活用しよう、と具体的に提示されたことがポイントであったと思います。最初は戸惑いが大きかったであろう教育長や教育委員会の先生方にとっても、その具体性が結果的には推進の大きな原動力になったことと思います。

守本市長

教育委員会も、新学習指導要領への対応であっぷあっぷという時に、『淡路人形浄瑠璃』『コアカリキュラム』と言われても、と困惑したと思います。しかし、単に新たな項目を一つ追加するということでなく、様々な課題を取り込みながら、総合的な学習の時間の核となるカリキュラムを作るという提案をいただいたことで、先生方にとっても学習活動全体のマネジメントがしやすい形になったと考えています。各校から気鋭の先生を集め、しっかりと時間をかけて、カリキュラム作りの基礎について共通理解を形成した上で具体的な授業内容を積み上げるというやり方に、私はせっかちな性格なので、「何をやっているのだろう、まだできないのか」とやきもきしていました。しかし、できあがった指導案を見たときに、必要なプロセスだったのだと心から納得しました。先生方の成果物、本当に素晴らしいですね。びっくりしました。この取り組みに対し、淡路人形浄瑠璃にかかわる方のみならず、いろいろな方から評価の言葉をいただくので大変嬉しく思っています。

若江

先生方と南あわじ市の伝統芸能にかかわる皆さんの思いが、コアカリキュラムに結集していますからね。 とはいえ、これはまだ完成品ではありません。現時点で完成した指導案を元に2019年度は小1,3,5と中1で、2020年度は小2,4,6と中2を含めた、市内の全校で実践を通して、若手の教員を巻き込みながら検証・改善し続けます。小1から中3まですべての学年で実施されるのは2021年ですが、今年度実践された先生方からは、実際に子どもたちが想像を超えた思考判断、表現ができていることに驚いたとの声がすでにあがっています。この子どもたちの生の反応が、先生方へのモチベーションとなり、先生方のパフォーマンスを加速度的にスピードアップさせ、結果このカリキュラムを「本物」にすると思っています。

私どものようなコーディネーター機能を持つ外部だけで開発したのではカリキュラムに魂が入りませんので、今回のように、先生方に伴走し1年かけて作り上げていく方法は、最も効果的で有効であると思っています。

守本市長

そうですね。またテーマの選定も重要な要因でした。教員の『淡路人形浄瑠璃』への知識や思い入れはバラバラですし、他にやりたいテーマがある人もいたでしょう。しかし、地域としてこの伝統芸能を後代につなげねばならないという課題が差し迫っていること、また、今教育現場で行っている芸術系の取り組みを整理したときに、『淡路人形浄瑠璃』はすべての要素を備える総合芸術であること、これらの点について共同の作成作業を通じて先生方が納得してくださった。自治体オリジナルだからこそ、そのテーマに必然性や必要感がなければなりません。

実際やり始めると、地域にリソースがそもそもあり、プロが学校に行って本物を見せることができる。そのありがたみを皆が感じていると思います。 また、これをやるぞという決定や、大きな方向付けはトップダウンでやりましたが、逆にカリキュラムの開発プロセスはボトムアップであったのがよかったですね。私も途中何が動いているのか全くわからないくらい現場の先生方が主導してくださいました。

若江

今回の事業では、ゼロから市だけで進めるのではなく、私たちのような外部を活用していただいたのですが、議会においてこのような教育改革のための新たな予算をとる際に、今の教育の問題解決だけじゃない、地域創生、地域そのものを次世代につないでいくためだ、というストーリーは重要でしたか。

守本市長

はい、大きかったと思います。もともと淡路人形浄瑠璃が衰退してもいいと思っている議員は一人もいないわけで、逆にどうすべきかと皆悩んでいた。行政・議会の共通の課題だったわけです。また、予算規模の面でも、例えば、学校に空調を入れるといった施設面の整備に比べると微々たるものです。私の記憶では、反対された記憶はなく、むしろ期待感を感じました。

若江

地元に根付く熱い思いや、皆さん共通の課題、必要としていることに対して応える手段が『教育』ということですよね。とはいえ、一般論で比較すると、施設のようなハード系の承認のほうが下りやすく、ソフト系の事業に対しては、同じコンサルティング会社が入るにしても、なかなか難しいというのが実感ですが、そのあたりはいかがですか。

守本市長

そもそも、今回のように教育の内容に関する事業について、市長部局が追加的な費用を出して何かする、ということが珍しいことです。「教育は教育委員会の役割」であり、教育委員会に毎年割り当てられている予算の中でやりくりして教育の新課題に対応するのが通常です。今回何が新しかったかというと、教育内容の高度化について市長部局と教育委員会が事前に相談し、追加の予算化をしましょう、と合意形成をしたことです。

若江

なるほど、そこが重要ですよね。今どこの教育委員会も新しいことにチャレンジしたいと思っていらっしゃいますが、追加予算をとることを最初から諦めておられ、他局との連携に積極的でないケースが多いです。

これからの行政の中で教育委員会の役割は今までとは違ってくるはずです。これからは、首長が教育施策をマニュフェストできちっと謳っている以上、それを実現できるマネジメントスキルと教育現場の知識を持ちわせた人材を教育長としてアサインする必要があると思います。

守本市長は、これから教育委員会に求められる役割をどのようにお考えですか。また、その実現には何が重要だと思われますか。

守本市長

行政がこれから教育委員会に対して期待するのは、単なる「教育の質の向上」を超えて、「地域の教育の魅力を向上させる」ことです。地域・まちの魅力向上という意味で、教育の占める役割が一層大きくなってきています。それを教育委員会が認識し、受け止めることも必要ですし、行政も教育に対して今まで以上に踏み込んでいく必要があります。教育現場の実態、学校の実情は複雑かつ変化しています。市のめざす方向を理解し、教育現場との間に立って、現場を変えていく具体策を考え、仕組みづくりをマネジメントするのが教育委員会の役割だと考えています。南あわじ市には、素晴らしい才能を持つ人材がたくさんいます。スポーツ・文化面での子どもたちのポテンシャルも高いと思います。けれど、それはまだ、親の関わり方や、偶発的な師弟の出会いに依存しているところが大きく、すべての子どもの能力を最大限に伸ばす組織的・意図的な人材育成ができているかと問えば、まだまだです。全国的な問題でもありますが、地方でも所得格差が教育格差につながる傾向が大きく、それをどう解消するかが大きな課題です。そのため、今回は小学校・中学校のカリキュラムを作りましたが、本来、保育園の段階から、意識してすべての児童に成長の道筋をつけていく必要があると思っています。

『コアカリキュラム』の成果を踏まえ、今、私は「学ぶ楽しさ日本一」を南あわじ市のスローガンにしています。唱え始めた時は、教育委員会が、その実現のための具体的目標をあれこれと提案しそうになりました。それに対し、私は、一歩引いて、現場の先生が主体的に、学ぶ楽しさの実現に向けて考え、実践するように仕向けなければならない、と伝えました。そのために始めた一つの方策が、「スクールチャレンジ事業」です。学校・教員自身が自校の問題は何かを明確に提示し、その解決に取り組むのであれば市がそのためのお金を出しましょう、という取り組みです。変わりゆく時代に適した教育を実現するため、教育長が一生懸命走り回って多くの識者に意見を伺い、「学ぶ楽しさ日本一」のコンセプト作りを進めてくれました。このコンセプトを学校に提示し、それをどう実現するのかは、学校が主体となって考え、実践できるよう支援する枠組みを作っていきたいと考えています。

また、「学ぶ楽しさ」は学校だけのものではありません。社会教育、生涯教育を通じ、保護者はもちろんのこと、高齢者、産業界など、より多くの市民を巻き込んでいくことが必須だと思っています。つまり、『教育』というのは行政・市民総がかりで進めるべきものです。小中学校の仕組みづくりが進みつつある今、次の課題は保育、幼児教育です。もう少し、能力開発的なことをやらねばならないと思うのですが、保育、幼児教育は現場の手法が固定化しており、新しく行政が踏み込んでいく時に難しさも感じます。

スクールチャレンジ事業

「学ぶ楽しさ日本一」をめざす事業の一環として、新教育課程の導入、学力向上、特別支援教育、いじめ・不登校問題などさまざまな課題に対応した教職員の資質向上研修や研究、体制づくり等を支援していきます。それにより、各校が「学ぶ楽しさ」を追及する授業や行事、取組を展開し、より特色ある学校づくりを進めていきます。

若江

小学校の総合的な学習の時間の原点は、まさに幼児教育の五領域からつながっていて、生活に密着させた学びは非認知能力の育成につながっています。保育、幼児教育に携わる先生方は、日常的にやっていらっしゃることも多いと思います。しかし、それこそカリキュラム・マネジメントが必要で、現場の経験に委ねていることを系統立てなければなりません。まさに、保育や幼児教育の『コアカリキュラム』が必要なのかもしれませんね。

守本市長

保育園・幼稚園は市長部局に担当課がありますが、今、教育委員会が、幼児教育にも関与して、保護者とともに幼児の支援を考えるための発達支援シートというものを作ろうとしています。新たに個別の教育のメソッドを導入するよりも、今保育士がやっている方法を尊重しながら、子どもの成長曲線が可視化できるようにして、保育士も、保護者も、「これができたら次はこれだな」とある程度順序立て、子どもが次のステップに進むためには何をさせればいいのかと考えながら関わっていく仕組みができれば理想です。それは今回の『コアカリキュラム』で学年ごとの習得目標を設定したことに通ずる、子どもの支援のための系統性を作るという意味の作業だと思います。

若江

市政として、まだやるべきことがたくさんありますね。最後にひとつ、企業の関わりについてお考えをお聞かせください。今までも、企業は地域社会、地域の学校のために取り組みをしていないわけではありません。教育のカリキュラムが変わることにより、企業の関わり方はどのように変化するべきでしょうか。

守本市長

市が変わり、教育行政が変わり、社会に開かれた教育課程を通じてもっと子どもたちがリアルな社会の現場とつながっていけるように学びが変わっていきます。そのとき、企業の皆さまには「学校を支援してあげている」という姿勢でなく、企業として「どんな人に働いてもらいたいか」を想像して、自分たちが子どもとどのような関わりを持っていけば、そのような未来の人材が育つのか、ということを考えていただきたいですね。企業は「言われたことをそのまま再現できる人」が欲しいわけじゃないでしょう。おそらく、「自分で考えて、疑問を持って、その解決に自ら工夫して取り組んでくれる人が欲しい。」とおっしゃるのではないでしょうか。そういう人材を育てるために必要な大人の関わり、企業の関わりを、教育者と共に考えた先に、自然と答えが出てくるのだと思います。

若江眞紀 写真
インタビュアー

キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム 事務局長

若江 眞紀

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